国宝 十一面観音巡礼 道明寺 法華寺 2023.10.25

石蕗の蕾し門や旅に出づ 一秀

十一面観音巡礼

白洲正子の著書に同名の本があります。十年ほど前に読んでみましたが、こちらは国宝の十一面観音像だけでなく、近畿一帯に存在する十一面観音像を巡る内容でした。自分が十一面観音に興味を持ったのもこの本がきっかけになり、渡岸寺をスタートして十一面観音巡礼が始まりました。日本には国宝指定された十一面観音像が七体あります。

これまでの寺参りで既にこのうちの四体は拝観済みなので残りは三体です。
国内にある国宝十一面観音は


六波羅蜜寺

聖林寺

渡岸寺

道明寺

室生寺

観音寺

法華寺

となっており、これまで渡岸寺、観音寺、聖林寺、室生寺の4ヶ所は既に拝観済みとなっています。
十一面観音像はその名が表すように、頭上に十一の顔を持つ奇っ怪な姿をしていますが、何故か日本的な雰囲気を感じさせます。一般的に、頭上の正面側に柔和相(3面)、左側(向かって右)に憤怒相(3面)、右側(向かって左)に白牙上出相(3面)、大笑相(1面)、頭頂に仏を乗せています。

七体のうちの四体まで拝観したのですから、ここまで来たら是非とも七体全ての拝観を実現したいと思うのが人というものでしょう。

残している道明寺の十一面観音は毎月18日と25日の2回御開帳されおり、法華寺は毎年春と秋に御開帳されています。厄介なのは六波羅蜜寺の御開帳で、これは12年に一度、辰年の秋に御開帳されます。
来年(2024年、執筆時点では今年)は辰年で、万が一これを逃してしまうと次の御開帳の時には生きているのかさえ分かりません。六波羅蜜寺の御開帳は例えその時に台風が来ていても行かなくては!

今年は法華寺の秋の御開帳が10月25日から2週間ほど行われるようなので、10月25日なら、道明寺と法華寺のその両方を拝観出来るのでいつものメンバーで早速出掛けてみました。

平日なのでそれほどの混雑はないだろうと思い、出発は清水いはらICをam5:00スタートです。これまでの寺参りや街道歩きで何回も通った奈良までの道を行きます。今回はレンタカーでなく友人の車を借りたので、車代もかなり安く上がりそうです。
西名阪を大阪府の藤井寺ICで降りれば道明寺まではそれほどの距離はありません

清水出発から丁度4時間後のam9:00道明寺に到着しました。
月2回の御開帳の日なのだから駐車場が空いているのか?と心配していましたが、参詣者は自分達以外には数人居た程度でそんな心配は皆無。
混雑を覚悟して来たのにいささか拍子抜けです。

道明寺

藤井寺市観光協会HPによれば、道明寺は7世紀中期に土師氏の氏寺として建立された土師寺を起源とした尼寺で土師氏の後裔である菅原道真公が、太宰府下向に際して伯母の覚寿尼を訪れたというゆかりの地です。

建立当初は現在の道明寺天満宮の南側参道付近に位置し、ここに現在も塔礎石が残っています。
最終的には明治時代の神仏分離令によって天満宮の境内にあった全ての堂宇が現在地に移されています。

本堂

本尊の十一面観音は厨子の中に安置されています。御開帳されていない時期はこの扉が閉ざされているのでしょう。ここにはもう一体、菅原道真公が本番の前に試しに彫ったと伝わる十一面観音像もあり、こちらは国の重文に指定されています。

本堂に安置される本尊は菅原道真自らが彫り上げたと伝わる国宝十一面観音立像で毎月18日と25日に拝観することができます。また、寺号の道明寺は菅原道真の号である「道明」によるものと伝わります。

国宝を愛でし尼寺野紺菊

広くもない駐車場でしたが、心配した満車状態にはほど遠く、余裕で駐車できました。御朱印をお願いして、早速本堂に入り十一面観音とご対面です。
この観音像は想像していたイメージとはかなり違い、その大きさは1m程の丈しかありませんでした。しかし、施された彫刻は繊細で像の傷みも殆ど無いように見えます。月に二回程度の御開帳ではそれほど傷む事もなかったのでしょうか。
もしこの像が本当に聖徳太子自身の作とするならば既に1400年近くも経とうとしている事を考えるとこの傷みの少なさは驚きです。
御朱印も頂き、境内の手入れをしていた皆さんが「今日は縁日だから寄っていくといい」と言っていた隣にある道明寺天満宮に行って見ました。

道明寺天満宮

本殿は檜皮葺きの立派な建物で、屋根も最近葺き替えたばかりのようで真新しいです。
これだけの檜皮葺きの屋根の葺き替えにはいったいどれ程の費用が掛かるのでしょう。白川郷の個人の家の葺き替えでさえ2000万、3000万と言いますから、神社本殿ともなればとんでもない巨額な費用となってしまうのでしょう。

本殿までの参道沿いには桜並木があります。花のシーズンになったらさぞ綺麗に咲くのでしょう。ところが殆どの桜の木に虫の被害が酷く、この先が心配されます。

天満宮八十路のうつけ詣でけり

 

菅原道真公を祀る天満宮ということもあり、本殿裏には800本もの梅園があります。こちらでは花の時期には「梅まつり」も開催されているようです。
今日は縁日の日という事で、境内には何軒かの骨董露天が出ていました。こうした物は見ているだけでも楽しいものです。でも、今日はそんな事もしていられないので、本殿を参拝して早々に奈良市内に向かいます。

法華寺

来る時に通って来た西名阪に入り郡山ICで戻って北に走ると、道明寺から1時間ほどで法華寺に到着しました。

法華寺は聖武天皇の皇后である光明皇后の父親、藤原不比等の屋敷だったところを、不比等の死後、子供の頃ここで生活していた光明皇后が皇后宮として利用したのが始まりで、その後法華寺となります。
その後も盛衰を繰り返して来ましたが、現在の本堂、南門は慶長6年(1601年)に豊臣秀頼と母の淀殿が、鐘楼も翌年の慶長7年(1602年)に豊臣秀頼と淀殿が片桐且元を奉行として復興したものとなっています。


鐘楼

本堂

本堂内に安置された十一面観音像は先ほど拝観してきた道明寺の観音像に似て、こちらも想像していたより小さな像でした。大きさが似ているだけに、見た雰囲気は似ています。

本堂右手裏には浴室(からぶろ)があります。この風呂は薬草を入れた蒸し風呂形式であること、また僧ではなく庶民のための風呂となっていました。この点が他の寺院の風呂とは大きく異なります。

からふろは「我自ら千人の垢を去らん」という光明皇后の発願に由来し、庶民に開かれた福祉施設の原点ともいえるものでした。


浴場

光月亭

光明皇后自らが天然痘で膿爛れた庶民の体を流した、といった伝説も残されています。
この時期、光明皇后の4人の兄弟が揃って亡くなってしまったという不幸が続き、皇后自身も、この時期横暴を尽くした藤原氏の一人であるという自責の念から藤原氏の存続そのものに危機感を感じ、懺悔の気持ちの表れだったのかも知れません。
伽藍の並ぶ境内の東の端には「華楽園」と呼ばれる庭園がありますが、秋のこの時期に咲く花もなく、雑草だけが元気に育っていました。

「華楽園」と名付けられた庭園

これで七体ある国宝十一面観音の6/7の拝観が済みました。あとは六波羅蜜寺の来年秋の御開帳と待つだけとなりました。

今日の目的であった十一面観音の拝観は終わりましたが、まだ時間も早いので、どこかに寄ろうということになりました。奈良市内では遅くなると帰りが大変です。そこで滋賀の長浜まで戻って、旧北国街道沿いにある黒壁スクエアに寄る事にしました。長浜からなら、帰り道もそれ程遠く感じる事も無さそうです。

長浜

文泉堂(書店)

旧北国街道

長浜は北国街道沿いにある宿場町です。中山道彦根宿まで上がってきた中山道からその北の鳥居本宿で分岐しているのが北国街道で、長浜宿は鳥居本から分岐した北国街道の最初の宿場町になります。

北国街道は長浜から先、北陸を北に進み、髙田宿まで行き、そこからは内陸部に進んで最終的には軽井沢近くの中山道、追分宿で再び中山道に合流しています。
京奈和道路、京滋バイパス、名神高速と乗り継ぎ、途中で昼食を摂りながら3時間ほど掛けて長浜に到着しました。


古い街並み

黒壁スクエアは平日にもかかわらず人でも多く賑やかです。最近は以前と違って、混雑するところは祝祭日でも平日でもあまり変わりはないようです。
黒壁スクエアから大通寺に廻ってみました。

真宗大谷派長浜別院大通寺


門前町通りの先に大きな山門が!

大通寺は真宗大谷派の寺院で、元々は長浜城跡に創建。内藤信成が慶長11年(1606年)に長浜に移封された際に現在地に移したとされます。
門前町の通りを行くと、大きな山門が見えてきます。


山門

大通寺境内

伏見城の遺構とされる本堂や大広間などの建築物(国の重要文化財)や、含山軒庭園と蘭亭庭園という2つの庭園(国の名勝)のほか、円山応挙や狩野山楽・狩野山雪らの障壁画など貴重な文化財を多数保有する寺院としても知られています。
ここでのお目当ては円山応挙の蘭亭曲水宴図の襖絵で、これは十数年前に見ているのですが、地味な絵だったという記憶以外にはなにも記憶には残っていませんでした。
浄土真宗の寺院ですから、建物はやたらと大きいです。そのために応挙の障壁画を探すにもそうそう簡単には見つかりませんでした。
係の女性に聞いてようやく十数年ぶりのご対面です。やはり朧気な記憶にあったような地味な絵でした。

旅果つや長浜御坊深む秋

時刻も午後3寺30分を過ぎて、そろそろ清水に向かい帰る時間です。
最初の計画では一泊で来て、どこか観光していこうというものでしたが、今回は日帰りになってしまったので、秋に改めて紅葉見物にでも行こう、という事になりました。
今年最後の旅行計画を起てねば!!


門前町の通り

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